
行政書士試験の試験科目にはどんなものがあるのでしょうか。
一般的に難関国家試験とされていますので、合格までにはそれ相応の勉強期間を要しますが、行政書士という法律家の仕事を遂行するためにはどれも必要な知識になります。
試験科目が多いと見るかそうでないかは個人差あると思いますが、いずれにせよ、事前に試験科目は把握しておきましょう。各科目別の出題範囲や攻略ポイントの解説と共にご紹介します。
Contents
行政書士試験出題科目一覧表
行政書士試験は全部で6科目あります。まずは出題科目一覧と大まかな出題範囲をまとめてみましたのでご覧ください。
科目 | 出題範囲 | |
---|---|---|
法令等 | 憲法 | 総論 |
人権 | ||
統治機構 | ||
民法 | 総則 | |
物権法 | ||
債権法 | ||
家族・相続 | 行政法 | 総論 |
行政手続法 | ||
行政不服審査法 | ||
行政事件訴訟法 | ||
国家賠償法・損失補償 | ||
地方自治法 | ||
商法・会社法 | 商法総則・商行為 | |
会社法 | ||
基礎法学 | 法解釈・司法制度・法令用語他 | |
一般知識 | 政治・経済・社会 | 各分野の時事問題等 |
情報通信・個人情報保護 | 情報通信関連・個人情報保護法 | |
文章理解 | 文章要旨・並び替え・空欄補充 |
行政書士が法律を扱う仕事ですので基本的には法律科目が中心です。その法律科目である「法令等」が5科目、、一般知識が1科目の計6科目になります。配点や出題形式などについては「行政書士試験の配点と出題形式について」を参照ください。
それでは科目ごとに解説します。
法令科目
まずは法律関連が出題される法令科目から。
行政書士試験の法令科目は、「業務に関する法令等」ということで憲法、民法、行政法、商法・会社法、基礎法学の5科目で構成されます。
この5科目で300点中の244点と8割強を占め、60問中46問がこの法令等科目になります。出題形式は5肢択一式問題40問(1問4点)、多肢選択式3問(1問8点)、記述式3問(1問20点)。
正解率50%(122点)をクリアするのが合格要件の一つになります。
憲法
まずは憲法です。
憲法とは、その国の基本法です。そして同時に国家権力を制限するための法です。国民の人権を制限するための法である法律とは決定的に異なる点ですね。実際に憲法の勉強をしていかないとわかりづらいと思いますが、法律と憲法は異なるものということなのですね。
行政書士試験では、ほぼ日本国憲法から出題されます。日本国憲法は、前文という冒頭の文章と全103条、実質的には99条の条文からなる明文憲法です。大きく分けて「総論」、「人権」、「統治機構」と分かれており、第1章から第11章にカテゴリー分けがなされています。
総論は「第1章 天皇」「第2章 平和主義」の部分であり1条から9条までの部分になります。10条から40条までが人権規定が並んでおり、これが第3章になります。そして、41条から99条までが統治機構ということになり、第4章以降になります。
- 5肢択一式・・・5問(20点)
- 多肢選択式・・・1問(8点)
出題範囲
前文から99条までが出題範囲になります。条文数的には人権規定より総論・統治機構の方が多いのですが、6~7割は人権規定の問題になります。
さらに言えば、13条の幸福追求権から22条の職業選択の自由までのいくつかの条文、それらに絡んだ基本的人権の限界の問題が人権規定の出題の中心になります。
総論・統治機構では国会・内閣・裁判所の章の規定からの出題が多い傾向があります。
攻略ポイント
おおよそですが人権規定と総論・統治機構で出題傾向が異なります。人権規定では判例問題が中心になります。総論・統治機構は条文問題です。まずはこの傾向をわきまえて勉強を進めるべきでしょう。
判例問題についてですが、憲法学上、重要判例というものが存在しますが、ここはしっかり押さえておくべきです。
- 事件の概要
- 憲法上の論点
- 規範の定立
- あてはめ・結論
まで、しっかり理解しておくことが大事になります。この基本的な重要判例を理解しておけば、未知の判例が出てきても対応できます。また、基本的人権の限界の問題、すなわち、「公共の福祉」「私人間効力」「特別権力関係論」はそれぞれしっかり理解しておきましょう。人権の問題とはすなわちこれらの問題と言えます。
総論・統治機構については条文理解が中心です。各条文の数値含めて暗記する必要があります。また、例えば衆議院の解散の流れなどは複数の条文にまたがっていてちょっと複雑です。フローチャートなどを用いて整理しておきましょう。
難易度
憲法の難易度についてですが、行政書士試験の場合ではそれほど高くないといえます。それほど出題数が多くないということもあるのでしょうが、点数の稼げる科目と考えます。
民法
民法とは、市民の法。市民間のルールを定めた法律ということですね。市民間のルールの法律ですから、範囲・量は膨大です。民法は、何と1044条まであるのですから。その中身は
- 総則(民法の総論的位置づけ。「代理」「時効」他)
- 物権(「物」に関する規定。「物権変動」「占有権」「担保物権」他)
- 債権(債権債務の話。「債務不履行」「同時履行の抗弁権」「契約」「不法行為」他)
- 家族・相続(家族関係や相続に関わるルール。「夫婦」「嫡出子・非嫡出子」「遺贈」他)
に分けられます。
民法は難しい科目です。これは間違いない。難しいので、身に付くまで時間が掛かります。根気よく勉強していく必要があります。そして、しっかり身に付けば、それはそれは大きな力になること間違いなしです。
「民法を制するものは行政書士試験を制す」って聞いたことありませんか?これは民法が試験科目にある資格試験すべてに言えることなのですが、法律系試験の「花形」です。どの試験でも占めるウエイトが大きいです。
- 5肢択一式・・・9問(36点)
- 記述式・・・2問(40点)
出題範囲
1条から1044条まで全域が出題範囲になります。もっとも、実際的な出題箇所にはメリハリがあり、出題頻度の高いところとそうでないところはある程度わかっています。もっとも頻度の高いところは債権でしょうか。「契約」の瑕疵担保責任や「不法行為」あたりは択一・記述問わず良く出題されています。
物権では物権変動のいくつかの超重要論点、担保物権の中の抵当権も頻出です。総則では「表示主義」「代理」「時効」いずれも大事です。
範囲が膨大で問題数も多いので決め打ちは難しいですが、重要箇所はしっかり押さえなければなりません。
攻略ポイント
民法は「要件・効果」、これを徹底することがもっとも大事なことです。問題のすべてが事例問題ですので、それを現場で条文に当てはめることができなければお話になりません。それには「要件・効果」を徹底して理解しておくことから始まります。これをベースにして各論点を肉付けしていきます。
また、民法は条文の原則論が判例等で平気で覆ることが頻繁に起こります。例えば「94条2項類推適用」とか。初心者の方はこれでかなり戸惑うと思いますし、苦手意識を持つ理由の一つだと思いますが、民法はそういうものだと割り切って食らいつきましょう。
なぜ原則が修正されて許されるのかは「取引安全の保護」のような一定の価値観がありますので、それを理解しておけばそのあとはスムーズニ理解できるようになっていくと思います。とにかく民法攻略の基本は「要件・効果」の徹底が基本。
難易度
ハッキリ言いますが民法は難しい科目です。行政書士試験に出題される科目では最も難しい科目だと思います。原則が覆ったり複雑だったり。範囲が膨大なのも理由です。
しかし、同時にもっとも面白い科目だと思います。難しいと感じるところを乗り越えて食いしばって着いていけば理解できるようになり面白いと感じると思います!
民法が苦手な人は、行政書士試験に絶対に受かりません。しかし、民法が得意であればそれだけで合格できるとは限りませんが、大きなアドバンテージになることでしょう。 ですから、民法は特に地道に力を付けていって、得意科目にしてもらいたいと思います。
行政法
行政法とは行政の手続や規律についての法律です。役所の公務員などの活動は法律の根拠があって活動しています。彼らは法律なくしてその業務にあたれないのです。行政法はそういった行政活動の根拠になる法を行政法と言います。
ちなみに、「行政法」という名称の法律は存在しないのです。ここで言う行政法とは、いくつかの法律を束ねて便宜上「行政法」と呼んで一つの科目としているにすぎないのです。具体的には、
- 行政手続法
- 行政不服審査法
- 行政事件訴訟法
- 地方自治法
- 国家賠償法
が中心になります。
上に挙げた行政法のうち、明確に憲法に関係のある法律があります。「国家賠償法」と「地方自治法」です。「国家賠償法」は憲法17条、「地方自治法」は憲法92条に書かれています。いずれの規定にも「法律で定める」旨の文言がありますが、憲法が法律に委任している形を採っています。つまり、行政法は、憲法の規定を具体化した法律といえます。
行政書士試験の最重要科目の一つであり配点・問題数共にトップです。
- 5肢択一式・・・19問(76点)
- 多肢選択式・・・2問(16点)
- 記述式・・・1問(20点)
出題範囲
行政法は民法に違わず…いや、民法以上に範囲が膨大です。行政法は主に5つの法律で構成されている…と言いましたがあくまで「主に」であって法律にはならない部分からの出題も多いのです。
もっとも、メインはやはり法律からの出題が多く、上記5法で6~7割、その他法律が1割強、およそ8割は法律からの出題となります。残りは行政法総論の部分になります。
攻略ポイント
行政法は上記のように範囲は膨大ですが、その範囲の割には対策しやすい科目と言えるでしょう。
それは行政法のカテゴリ-からの出題数がほぼ一定であるということが挙げられます。例えば国家賠償法。この法律からは例年2問が出題されます。行政手続法も例年2問。さらに、この2法などは出題箇所がある程度絞ることができるのです。国賠法などは1条2条の判例からの出題が大半です。
つまり、範囲は膨大でも実際の出題箇所は結構絞り込むことが可能なのですね。
もうひとつ、似たような問題が良く出題されるので、行政書士試験の中でも過去問演習の恩恵を受けやすい科目になります。ですので、行政法は特に過去問検討を入念に行いましょう。
難易度
攻略ポイントでもお話したように、範囲の割には対策は立てやすい科目です。民法と並ぶ最重要科目ですが、難易度は民法ほどではないと思います。しっかり対策を立てれば十分得点源になり得る科目になります。
行政法は前述したように、憲法の統治機構を具体化した法律といえるので憲法との親和性が高いです。ですから、行政法は憲法を勉強した後に始めると良いと思います。イメージ沸きやすいし頭に入ってきやすいと思いうので、難易度軽減に役立つと思います。
商法・会社法
「商法・会社法」はそれぞれ別の法律で、関係性は会社法は商法の一部と考えてください。以前は、会社法は商法の条文に並べられていました。法改正によって独立した法律です。いずれも民法の特別法になります。
商法とは、商のプロの場合の取引きの規定になります。商売ですから、商的取引きは大量に継続・反復して行われ、一般的取引きとは別にその特性に応じたルールが必要になってきます。そのルールが商法です。
会社法は商法に規定だけでは大きな営利組織となり得る会社ではカバーしきれない、別に会社法というものを設えて対応していく必要がある、ということで商法から独立した法律です。
会社の設立に関する規定から始まります。発起人設立やら募集設立やらの設立の方法や手続について。株式会社だったら株式及び株式発行の規定、そして、会社の機関内の規定です。代表取締役って何?などが規定されています。受験生の中でも会社法(商法も含めて?)に苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか。馴染みも比較的薄いですしね。
- 5肢択一式・・・5問(20点)
出題範囲
商法と改称といった2つの法律から出題されるのですから、範囲は広いです。
もっとも、この分野からは例年5問しか出題されず出題箇所も例年に通ったものがあります。まず、商法からは例年1問、会社法からは例年4問と内訳が決まっています。さらにいえば、商法は「商行為通則」「商号登記・商号」「商業使用人」からの出題が集中し、会社法は「設立」「株式」「機関」で4問の枠をほぼ占めています。
攻略ポイント
ある程度出題の的は絞られている商法会社法ですが、出題数が少なく試験に占めるウエイトも高くないのが実情です。そういった点を踏まえて、商法会社法は出題頻度が高い箇所に心血を集中し、あとは捨ててもいいのかなという気はします。
その分を他科目に労力を注げば得点数を稼ぐ観点では効率的のような気はします。それでも5問中2問程度は正解はできるのかなと思います。
難易度
問題の難易度は基本的にはそれほど高くないと思います。ちゃんと準備すれば点数は取れる科目だと思います。ただ、例年1問ぐらいは「?」と思うような問題が出題されます。そういった問題は端から諦めて取れる問題をしっかり取るのが得策でしょう。
基礎法学
基礎法学とは読んで字の如しで、法学の基礎知識のようなものです。その法学とは、憲法も含めたあらゆる法学の基礎知識も含まれます。
法令というもの、それぞれ目的や作用は異なりますが根本の部分では共通する部分があります。ですので法令の基礎を学べば土台ができ知識の構築が早まったり深まったりする。基礎法学はそういった趣旨で採用されている科目です。
例えば、「公法と私法の違いとは?」「一般法と特別法の違いとは?」とか。「罪刑法定主義」「属地主義と属人主義」「拡張解釈や縮小解釈、類推解釈の違い」とか。これらはある法律の基本中の基本のところで問われる命題たちです。そうです「基礎法学」の分野なのですね。
また、法令そのものではありませんが、司法制度改革についても過去問われたことがあります。
- 5肢択一式・・・2問(8点)
出題範囲
基礎法学の出題例をいくつか挙げさせていただきましたが、これらは民法や商法の関係性や憲法やその具体法の側面が強い刑法の基本部分になります。つまり、出題範囲は憲法や民法、刑法の基礎部分から出題されるということになります。
複数の法律が入り組んでいるので範囲が広そうだなと思われる方もいらっしゃると思いますが、あくまで基礎の部分、それぞれの法令の序章の部分という言い方もできますのでそれほど怖気づく必要はないと思います。
例年2問しか出題されない基礎法学、範囲内で一定の使いまわしも認められますので、実質的な出題範囲はあまり気にしなくても良いと思います。
攻略ポイント
基礎法学はどうやって攻略するか。過去問が最も確実で効率的でしょう。各法令の基礎部分とは言っても、基本的には各科目では触れられない部分です。ですから基礎法学は別に勉強する必要があります。
もっとも、2問しか出題されないし決して難しいことを聞かれるわけでもありません。過去問をチェックしてその部分を逆算して勉強していけばいいのではないでしょうか。
難易度
既に言いましたが、難しいことを聞かれるわけでもないので難易度は低いと言えます。対策自体も変に根気入れず、1問取れれば御の字ぐらいの意気込みで臨むことをおすすめします。
一般知識
法令等に対して一般知識です。もちろんこれは科目ではなく、行政書士の業務に必要とされる知識ということです。これだけではなかなかイメージがわかないですよね。これからご説明しますね。
3つのカテゴリー
一般知識の出題範囲ですが、大きく分けて3つのカテゴリーに分けることができます。
- 政治・経済・社会
- 情報通信・個人情報保護
- 文章理解
「政治・経済・社会」とは、それぞれ分けられており、それぞれのジャンルに関連した問題が出題されます。法令問題に近い問題も出題されますが、より政治的・経済的・社会的な問題が出ます。
「情報通信」とは、インターネット関連や情報通信セキュリティの事象、用語等の問題が出題されています。「個人情報保護」とは、個人情報保護法に関する問題で、その意味では法令問題に近いと言えるでしょう。
「文章理解」とは、行政書士試験では最も異質と言って良いでしょうね。国語の問題です。
この一般知識は足切りが採用されており(行政書士の足切りとは)、40%以上の正解が必要になります。全部で5肢択一式問題14問(56点)ですので最低ラインが6問正解です。
- 政治・経済・社会・・・7~8問(28~32点)
- 情報通信・個人情報保護・・・3~4問(12~16点)
- 文章理解・・・3問(12点)
出題範囲
この一般知識科目、すべてではありませんが、出題範囲という概念ではお話がしづらい科目ではあります。「政治・経済・社会」では時事問題が出題されますし、「文章理解」も出される問題は、その性質上すべてが未知の問題です。
その意味では試験勉強がしづらい科目です。先ほども言いました通り、一般知識は足切り点が設けられていますので、決しておろそかにすることができない科目なのです。
攻略ポイント
上記の理由で一般知識の勉強というものはなかなか難しいのですが、強いて挙げるとしたら「取れるところはしっかり取る!」です。「情報通信」はしっかり得点源にできます。個人情報保護法は過去問をつぶせば特に問題ないですし、「文章理解」についてもほとんどの方が小学生や中学生にやったことのある問題です。一定の訓練で得点源になり得るでしょう。
この2つである程度稼いで、たとえば6~7問中3問、できれば4問正解しておけば「政治・経済・社会」もだいぶ楽になります。過去問をつぶしつつ普段から時事問題に気を配っておけば足切りはクリアできるでしょう。
難易度
「情報通信・個人情報保護」「文章理解」についてはそれほど難易度は高くないと思います。足切りがあるのでしっかり取り組めば問題ないと思います。「政治・経済・社会」は正直判定が難しいところです。目をつぶって物をつかむ感覚があるのではまれば簡単ですしそうでなければ難しいということになります。
もっとも、大事なことは「変に深入りしないこと」です。一般教養に足切りがあると言っても、それでも法令に心血注ぐべきです。
まとめ
以上、行政書士の科目でした。税理士試験のように場合によっては免除科目があるとかそういうこともなく、すべての受験生が6科目出題されて同じ基準で採点されますのでご注意を。
ご覧のように、6科目ということになっていますが、その科目の内訳はかなり細かいものでその分出題範囲も広範囲です。
もっとも、すべての分野が同程度出題されるというものでもなく、重要度に応じてメリハリ付けがなされていて、それは出題数や配点にも反映されています。